新藤兼人部屋、かつ西川美和部屋であるところの、茅ヶ崎館、一番の部屋の朝。
電子読書「永い言い訳にまつわるXについて」読了。これまで買った電子書籍の中で、最も熱心に読んだ。読み応えあるエッセイが10篇300円というのは、気軽さの面でも満足度の高い300円の使い方だった。いずれあちこちに書かれた他のエッセイと合わせて書籍になってほしいけど、映画公開前にタイムリーに必要部分だけ電子書籍でさらっと発売されるのも、うまい宣伝と思う。小説も、撮影裏エピソード満載のエッセイも読み、準備万端というところだけど、映画の前にこれだけ情報が入ってるというのもどうかなと思いつつ、10月まで時間があるので、公開の頃にはうまい具合に忘れているだろう。
子役の演出について書かれた箇所。演出に葛藤する西川監督が、あの監督は子役をこうやって演出するそうだけど…と、師匠の是枝監督はじめ、いろんな監督の名前が挙がり、どの演出方法も誰にも似ていないその人独自のもので興味深い。最近亡くなったキアロスタミの演出にも触れられていて、まさに鬼畜の仕業!と呼ぶべき演出法だった。
映画を撮る人について飽きっぽい私が尊敬するのは、作る!と考え始めてから公開するまでの期間の長さ、その長きに渡って種々の専門スタッフを巻き込み、情熱が長く持続すること。「永い言い訳」は小説の書き始めから映画の公開まで3年半以上かかっている。人の気持ちなど容易に移ろうであろうそれだけの間、己の生み出した物語に執着して映画の形に仕上げるまで…が綴られて、そうやって生んだ物語との別れについても触れられている最後の1篇がとても素直だった。