映画自体が面白いかどうかも大事だし、出演する俳優たちのフィルモグラフィの中でも好みかどうかも大事。「河口」は呆然としつつも面白い映画だったけど、山村聰、岡田茉莉子映画の中では、それぞれ別に好みがある。my best H.K.(Hiroshi Kawaguchi)をいつも探しているように、どの俳優でもmy bestを探してしまう。
my best山村聰としてしまって良いのかわからないけど、「東京物語」の長男役の強い印象を払拭したのは、去年、若尾文子映画祭で観た「家庭の事情」(吉村公三郎監督/大映/1962年)。男やもめで娘4人を育てあげた山村聰が退職金を4分割して娘に渡し、これで子育て終了だ、それぞれ好きに使いなさい!と自由宣言する物語。脚本は新藤兼人。この時代の定年は55歳だったのね…ということに加えて、晴れて自由を手に入れた山村聰が行きつけの飲み屋の女将から押し倒されん勢いで迫られ、山村聰もまんざらでもなく、繁華街の和風連れ込み旅館に雪崩れ込むのだけど、この旅館のセットが、鈴木清順映画(美術:木村威夫)か?というキッチュさ。浅草の仲見世に並ぶ外国人用チープ和風土産屋のようなセットだった。藤間紫のねっとりした台詞回しもあいまって強烈でこの映画の他の印象が霞む。川口浩も出てたのに…。
山村聰って、奈良生まれだったのね。同郷!これから奈良生まれって誰がいるのさ?話には、明石家さんま、堂本剛に加えて、山村聰と言うことにしよう。誰に通じるというのか…。
そして岡田茉莉子。「秋日和」は大好きだし、「河口」のファッションも素晴らしかった。目が強くて、きゅっと顎が尖ってて、首から肩にかけてのラインが美しいから、かぶりものが似合う。「秋日和」の紫陽花ヘッドドレスがアホの子にならないのは(ちょっとなってるかも…)かぶりもののインパクトに美しさが負けていないからかな。
しかしmy best岡田茉莉子は今のところ、「妻二人」(増村保造監督/大映/1967年)。上昇志向の強い非情な男が政略結婚的に若尾文子を選び、岡田茉莉子は棄てられるのだけど、月日が経った後の酒場でのふたりの再会場面の岡田茉莉子がもう、これぞ宿命の女!!!!!と誰をも納得させるカメラワークで撮られている。選ばれなかった女という役柄も、劣情をそそるってこういうことかな?と翳りが美しさに拍車をかけている。若尾文子、岡田茉莉子が共演していながら、岡田茉莉子がそんな撮られ方をしているために、若尾文子が脇にまわっているように映っているのも興味深い、見どころのたくさんある映画。
サスペンス作家パトリック・クウェンティンの原作を脚色したのは…またもや新藤兼人。もしや、大映、新藤兼人の組み合わせが俳優たちの魅力を存分に引き出し、それぞれのmy bestを更新しているような気もしてきた。大映と新藤兼人の手のひらの上で転がされているだけなのか。