初めて観たのは確か「オリーブの林を抜けて」、無意識に買った映画祭のチケットで。振り返るとイランで撮られたものより、彼にとっての外国で撮られたもの、晩年の2作「トスカーナの贋作」、日本で撮られた「ライク・サムワン・イン・ラブ」がとりわけ好きで、特に「トスカーナの贋作」。
冒頭、作家の講演で語られる、本物と贋作について。そして作家と女性が、偶然知り合った他人同士のようにも、長く連れ添った夫婦のようにも見え、彼らが他人同士なのに夫婦を演じているようにも思え、そもそも夫婦って他人同士だねと思い出したりもして、最初から1つの不穏なメロディーが変化しながら最後まで鳴っているような構造に惹きつけられた。いくつかの言語が意図的に使い分けられていたようにも記憶している。いまいち魅力がわからなかったジュリエット・ビノシュが、私にとって最も美しく見えた映画でもあるのは、彼女の役柄に含まれた謎の分量のせいかもしれない。
「トスカーナの贋作」はフィルメックスで上映されたと初めて知った。その際のレポートを発見。
http://filmex.net/dailynews2010/2010/11/qa-3.html
訃報で初めて年齢を知った。順繰り順繰り死は誰にも等しく訪れるのだな。