CINEMA STUDIO28

2016-03-04

PTU

 
 
銃撃戦の火花で暖をとる冬の終わり。ジョニー・トー祭「PTU」。2003年の映画。
 
 
「エレクション」シリーズが黒社会ものと言えど銃が登場せず、鉈や石や包丁での暴力描写だったので、「PTU」の最後で銃声が響き、ノワールもの鑑賞気分が盛り上がる。とはいえ「PTU」も前半は、包丁が身体に刺さったまま車を運転するチンピラなど登場し、痛い痛い痛い痛い!と声をあげてしまう。銃だと一瞬だけど、包丁は長引くね…映画的には見せ場の時間をのばせて便利なのかも。
 
 
夜の始めにバナナの皮で滑った拍子に銃を失くした刑事(ラム・シュー)が夜の終わりに再びバナナの皮で滑るまでの物語。今時バナナの皮で滑って映画になるのはラム・シューの視覚的魅力によるところが大きい。銃を失くす筋書きは黒澤明「野良犬」へのオマージュらしく、ジョニー・トーは黒澤明が大好きなんだなぁ。私は黒澤明よりジョニー・トーが好きよ。
 
 
火鍋屋の座席で登場人物の力関係を見事に説明する前半から、一転して中盤はテンポが緩く中弛みのように思えたけど、「エレクション」シリーズでは始終緊張して物語を追っていたので、中弛みのせいで却ってジョニー・トーの撮る香港を隅々まで観察することができた。夜の場面がことごとく素晴らしい。香港の夜に見惚れて撮っている。かっこいい!と心が高揚するままに、これでもかとかっこつけて撮っていて気持ちいい。深夜の広東道で物語が収束する場面はひたすら映像に見惚れてた。深夜といえども広東道、あんな無人の国のような場所でもあるまい、と思っていたら別の場所で撮ったそうだけど。
 
 
その後観たジョニー・トー映画ははマカオ、大陸、昼の香港で撮られているものだったから、「PTU」は香港の夜が美しく撮られた小品として記憶に残っている。
 
 
昨日、ルイス・クーの中国名は古天楽であってるんだっけ?と調べるべく検索、中国版wikipediaのような百度百科が情報豊富で楽しい。
 
 
ジョニー・トー、フィルメックスで観た「華麗上班族」の後にもう新作を撮ってる。「三人行」、主役はヴィッキー・チャオ。ルイス・クーも出てる。公開希望!多作な人ね。
 
 
多作…と思えば1本撮るのに何年もかけてたりもして。「PTU」は愛すべき小品という印象なので肩慣らしのようにさっと撮ったかと思えば、撮影に2年もかかったらしい。どのへんに…?やっぱ包丁刺さったまま運転するあのシーンとか…?そしてこの映画が台湾や香港の映画賞を総なめ的に受賞したという事実も、なんだか意外だった。