CINEMA STUDIO28

2016-03-01

Automat

 
 
映画「キャロル」の原作本、パトリシア・ハイスミスの小説「キャロル」、週末に受け取り、通勤電車で読んでいる。amazonで品切れ、近所の往来堂書店にもなく、セブンイレブンに届けてもらうサービスで手に入れた。売れているのか在庫僅少らしい。
 
 
 
 
文庫カバーや、カバーの上にさらにカバーをかけて手元が落ち着かないのが苦手なので、文具屋で数百円で売っている透明ビニールのカバーをかけ、鞄に放り込んでも汚れないようにしているのだけど、手に取るたびに表紙の絵にうっとりする。映画のイメージにも物語のイメージにもぴったり。本を開く前にしばらく絵を眺めるたびに、徐々に暗くなる映画館で物語の開始を待つような気分になる。
 
 
エドワード・ホッパー「Automat」、1927年の絵。油彩。WikipediaによるとAutomatとは、自動販売機による軽食の販売摂食施設とのこと。高速のサービスエリアの一角にあるような、あんなイメージの店だろうか。

 
 
こちらは40年代NY、AUTOMATの看板が見える。
 
 
ホッパーの絵の前に立つと違う感覚が生まれるのかもしれないけど、映画を観て小説を読む私には、絵の女性はテレーズにしか見えない。映画では詳細までは説明されていなかった彼女の暮らし方を小説で知っている。親と不仲で施設のような場所で育ったこと、仕事に就くのが難しく質素な一人暮らしの部屋で暮らしていること、クリスマスのバイトでデパートで働きながら舞台美術家を夢見ていること。映画のテレーズは写真家を目指していた。小説の冒頭、デパートの写真食堂で簡素な昼食を食べる場面から始まったせいか。伏し目でじっとコーヒーカップを眺める絵の女性からは感情が読み取れず、キャロルと出会う前の、気持ちの行き場を知らず手持ち無沙汰なテレーズみたい。
 
 
見事のデザインのカバーだと思う。絵はアイオワの美術館が所蔵しているそうだけど、世界のどこかでいつか出会えますように。