CINEMA STUDIO28

2016-05-14

ソロモンの偽証

 
 
体調が優れない日、早々に外出を取りやめ、家のスクリーンで借りっぱなしの映画を観ることに。昨年公開された「ソロモンの偽証」前後篇。宮部みゆき原作とは始まってようやく知った。校庭に雪の積もったクリスマスの朝、死体で発見された男子学生の死を巡り学校が騒めく。教師、親、報道に翻弄された生徒たちは、校内裁判を開くことにより自主的に真相を解明していく。
 
 
 
映画の撮影の主流がフィルムからデジタルに移行してから上映時間はどんどん延びており、3時間以上の映画がゴロゴロ。さらに最近の邦画は動員数を増やすための苦肉の策なのか、前後篇に分かれるものが出現し、1ヶ月ほどの時間差で公開を追いかけないと1本の映画を観終わることもできない。「ソロモンの偽証」も前後篇、合計4時間以上。身体を休めるためソファに横たわり適当な気分で観ていたので、映画館で観るほどの気合は不要だったけど、振り返ってみるとこの物語を語り終わるのに果たして4時間必要なのか。前篇は事件の概要と登場人物のキャラクター紹介、後篇は裁判で人物の相関と事件の真相。学校ものとはいえ主要人物はさほど多くなく、キャラクターの奥行きも時間をかけてじっくり説明しないとわかりづらいね…と思うほど複雑ではない。大人の事情があったのであろうか…。
 
 
不在ながら事件の中心にいる亡くなった男子学生の、暗さゆえの鋭さで他者を支配しようとする様は、彼がそんな思考に至る背景があまり描かれなかったせいか、やや不快。現実に遭遇したら一目散に逃げたくなるだろう。誰にでも、他者の人生を断罪する資格はない。大人になると、不快な人物からはそっと距離を置くという方法を選択できるけど、学校生活では難しく、また彼らもそんな処世術は未だ身につけていない。彼のために残された学生たちが心乱されながら議論する様子は痛ましく、つまり私はこの映画を観るのに向いていない、ということを4時間観た後に思う。しかし彼が乱した後の世界を秩序をもって整えんとする集団の中心にいる藤野涼子という女優が素晴らしく、肝の据わった低い声でビシッと台詞を発声するたびに、ああ、彼女を観るだけでも4時間この物語につきあった甲斐があったな、とも思った。
 
 
藤野涼子、映画の役名と芸名が同じで、この映画の大規模なオーディションで発掘されてデビュー。4時間の映画で主役をいきなり演じた後、しばらく学業に専念するために休業するそう。まだ何の色もついていない状態で映っていたせいか、本人の潔さそうな佇まいが役柄とリンクしていた。
 
 
昨秋、長野で開催された小津安二郎記念映画祭で上映されていたこの映画は観なかったけど、2日目の朝、小津監督が篭って脚本を書いた無藝荘という場所に山を登るバスに乗り見学に行った時、映画祭のゲストたちが先に着いていて、さして見学場所の多くない屋内で、囲炉裏端で話を聴いていたら、先客の中に成島出監督と藤野涼子さん、スタッフの方がいたようで、この!!!という状況は映画を観ていたらもっと!!!だったのだろうな、と思い、東京に戻ったら「ソロモンの偽証」を観よう、と決めたのだった。実物の藤野涼子さんは、映画とさして乖離のない落ち着いた印象で、あの囲炉裏端の女性が制服を着てそのまま映画のスクリーンに映ることに何ら違和感を覚えない。
 
 
長さ然り、いろいろ言いたくなる映画ではあったけど、いつか学業の落ち着いた年齢に達した頃、「ソロモンの偽証」とは系統の違う映画で、また藤野涼子さんとスクリーンで再会してみたい。
 
 
…と、調べてみたら、黒沢清監督の新作に出演するとの情報が。楽しみ。